バードハウスのコンセプトとデザインは、アカディア・サマー・アートプログラムのために委託された「スタジオ」という実際のプロジェクトに由来する。スタジオはアーティストが最長1ヶ月利用できる、必要設備の整った独立した建造物である。小さなバスルームとキッチンが付属しているが、本来はアーティストのためにユニークで美しい環境を提供することを目的として設計されている。 アカディア・サマー・アートプログラムとはアーティスト、建築家、著述家、作曲家などを対象に、居住と作業のスペースを1週間から1ヶ月まで提供するものである。このプログラムの発起人であるマリオン・ストラウドは、アメリカ・メイン州の沖合いにあるマウント・デザート島での同プログラムへ、アーティスト達の参加を呼びかけている。私は、島の南西側にある、ウェスタン・マウンテンを望む島で一番古い農家(18世紀の建物)が立つ、特定地所のスタジオ設計を依頼された。 建物の構造形態はふたつの限定的要素に対応したものである。ひとつはウェスタン・マウンテンに向いていることと、ここの緯度における太陽の運行。ふたつ目は、実際にアーティストが使う壁面スペースだ。L字型をした壁がふたつある。ひとつは間柱と合板からなる高さ約240センチの、スケッチを留めるツールを保持するためのもの。もうひとつは高さ約360センチ、合板に重ねたプラスターボード製の直角をなす壁で、アート作品用である。 屋根は、太陽の運行から「一番熱くなる」低い南西の角から、「寒くて」高い北東角に向かって斜行している。 プラスティック製の楔形をした採光窓を建物にそって回転させることで、スペースに光を取り込むようになっている。東側のシェード付きのポーチからは、山の遠望がきく。 巣箱が文字通り孵化したての幼鳥の保育場所であるように、この建物はアーティストの想像力をはぐくむインキュベーターとして創られた。 巣箱は、寄付金を募ることを目的としたある芸術団体の依頼から思いついたものである。当初は3個製作した。ひとつは、オークションにかけるため、依頼主の芸術団体に送った(美術商が落札している)。アーティストのための尽力に感謝の意を表して、マリオン・ストラウドにもひとつ送った。三つ目は、ニューヨークのオリエントにある自分の庭に置いている。今年はじめて、モリツグミが巣箱一杯に営巣し、ヒナを孵した。そして4個目がこうして、大阪のバードハウス・プロジェクトに届けられた。 巣箱はアルミ板と船舶用合板でできている。製作はニュージャージー州ジャージーシティーにあるラディー社が担当した。 アカディア・サマー・アートプログラムのバードハウスに参加したアーティストのために仕事場を提供する本物の建物「スタジオ」と、大阪のバードハウス・プロジェクトに参画している芸術団体のための、「世界はみんなの巣箱」という考えを強調するスケールモデルの関係は、私には、一つの共通の思想のもとで様々に異なる規模や目的、そして文化を結びつける論理的な方法に思える。 スケールという観念は私にとって非常に重要である。これは、物体あるいは囲みこまれたスペースと、われわれの身体に関する実寸の関係である。手にする物体をデザインするときでも、居住するための建造物を設計するときでも、その重要さは変わらない。人間のプロポーションとの直接的な関係は、物体のデザインの成功を左右する。もちろんここでは、鳥の大きさがその住まいの寸法を決定する。私がこのプロジェクトに興味を抱いたのはそういう理由からである。 シェルター、自由、さらには我々と自然との関係を暗示したも同然であるが、そこには実用性という本当の含みがある。鳥がその中で巣づくりをするなら、成功したといえる。実用的な物体であるなら、成功したといえる。世の慣わしに対するよりよい理解のために寄与するなら、成功したといえる。 困難さと脅威が日々増していくこの世界で、はぐくみ、インスピレーションを与え、シェルターとなるようなアイデアとしての長期プロセスと一連のプロジェクトに参加できることを大変喜ばしく思っている。次世代 我々は危険と複雑さが増す一方の社会に住んでいる。1960年代、環境活動家の運動から、「思考はグローバルに、行動はローカルに」というスローガンが生まれた。今こそ、これがぴったりあてはまる。 資源を賢明に利用するために、我々は責任をもってデザイナーの役割を果たさなければならない。クライアントと社会に対する責務をまっとうするため、自覚ある仕事をしなければならない。「ただ新しいだけではなく、必要なもの」を作り出すために、仲間と協同して仕事を進めなければならない。我々は献身の気持ちと厳しさをもって、自らの大望を実現しければならない。 |