武蔵野美術大学

Birdhouses
 今回私達の提案するバードハウスは、都市に置くことを前提としたものである。それは都市開発の進んだ鳥たちの住みにくい場所に設置することによって、より明確に矛盾を表現するためである。

 バードハウスは、人の手のよって加工してある自然物が、人工的な素材に覆われたものであり、幾何的なフォルム、人工的な素材は都市をあらわし、加工された自然物は不自然な形で保護された自然の姿である。
 これまで人間は都市の発展に伴い、現在までの歴史の過程で快適さ、機能の追求のために鳥の住環境を減少させてきた。そうした結果 への対策のひとつであるバードハウスプロジェクトの内容は、自分たちの行ってきた行為との矛盾を生んでいるのではないか。都市の発展と、自然との共生を成り立たせることは、単にバードハウスの制作のような一時的な処置ではすますことの出来ない問題である。
 私達のデザインは、未来においての自然と人間の共生をあげるだけのものでもなく、事実としての矛盾を提示するものである。 見たものが矛盾に対峙し、人間にとっての自然というものは何なのかを深く、そして繰り返し考えるきっかけとなるだろう。それは個人個人の感性に訴えかけるパブリックアートの側面 を持つものである。

●空間演出デザイン学科
竹内亮輔/赤澤真美/池田政子/加藤恵美
/加藤直子/五月女大介/丸谷礼奈
●工芸工業デザイン学科
小川 知子/佐々木ゆずこ/鴇田郁美/
花岡良恵/林智美
●映像デザイン学科 坂内和美
●基礎デザイン学科 望月渚
●デザイン情報学科 藤本誠一

名古屋造形デザイン専門学校

ダンボール・バードハウスプロジェクト
 私達は、バードハウスを作るにあたり特に配慮したのが素材の選択です。
 「人と自然環境の共存」をふまえ、コストがかからず、エコロジカルな素材を探究していくうちにダンボールにたどり着きました。
 そこで、ダンボールの可能性を実験した2つのモデルを提案します。
(A)Float(浮遊)
 このバードハウスは、一辺が15cmの正三角形を組み合わせ正20面体の構成をしています。  素材がダンボールであるため軽く、ワイヤーで3ケ所から吊るすようになっています。そのため地上の天敵から身を守れます。全体に窓がついていることにより通気性もよく、風が吹くとフワフワ揺れるゆりかご式のバードハウスです。
(B)Increase (増殖)
 基本構造は、正三角形に切り込みを入れ球体の形態をしています。
 単体でもバードハウスとして成り立ちますが、つなげることにより2つ、3つへと増やし大きくすることが可能です。  人間の2世帯住宅のような生活スタイルが、鳥の社会でも実現できるようになるかもしれません。
 大きな家族が育つようなバードハウス環境を目指しています。 鳥は羽を休める場所を求め大空をはばたく。翼を広げ自由に飛ぶ姿は、誰でも一度は憧れをもったことだろう。鳥のように飛ぶため、人は飛行機をつくった。空から見る景色は、一瞬王様になった気分になる。
 鳥は自由に遊んだ後、その疲れをいやすため住む場所に戻る。住む場所は種類によって地上、草、低木、高木、木の穴、水上など様々である。外敵から身を守り、生活していくうえで都合の良い場所を探していくのである。人間が住宅を探すのと同じように、鳥も定住する場所が必要なのである。  鳥は自然の中で生活したいが環境がどんどん悪化している。その環境を悪化させているのは人間である。自然を見つめ直し、自然を再生していかなければならないことが人間の使命と言っても良いのではないかと考える。
 ひとりの生活では寂しい。多くの人が集まり、にぎやかな生活ができることにより、心が和むのではないか。それは、人にとっても同じ事である。
 バードハウスは、人間が今までに壊した自然を取り戻すための一時的な住まいと考え、自然環境により近いものを望むことにより鳥と人間とのコミュニケーションがとれるのではないか。鳥が望んでいる条件は、人間も同じように望んでいるような気がし、自然の持つすばらしさを考えてみたい。

(A)Float(浮遊)

●広告デザイン科
五藤洋子/下井田 篤
●CAD設計科 後藤良紹
●監修
吉田信治 教諭
近藤豊  教諭

 

 

 

 

(B)Increase (増殖)

和歌山大学

Wings
 連続するカーブによって、鳥たちは包み込まれるように守られ、また彼らの行動は規定される。光はさらにその行動を促し、導く。また翼がつくるレベルの差により、内部空間は3つに分けられる。

  入口近くの少しくぼんだ床のある場所では親が卵を生み、そして温められ、雛が生まれる。雛は暗い物陰を好み、翼の一部に身を隠す。中に入って上方に見える外部に張り出した空間は、巣の死角をなくす為の“見張り台”である。またそれと同時に外部に対しては“庇”の役割をし、他の鳥や小動物を日差しや風雨から守る。
 ここは唯一内部と外部が関わり合う場所で、内と外の鳥達は会話する。もう一つの空間、入って左の一段下がった連続している翼が床になっている場所は、疲れた心体を休め、瞑想する場。翼の一部から木漏れ日の様な光がさし、悲しみを知るとも言われる鳥の心を満たす。
 つまり私はこの巣箱で、包み込まれるような空間が与える安心感と、トップライトから入り込む直接光、隙間からこぼれる屈折した光、壁に当たりグラデーションがかった間接光、これらの光の表情を空間構成に利用するという2つを追求したのであるが、その理由は、鳥も人の様に感情を持つという私自身の実感をもとに、人が母の胎に帰ったような安心感を鳥も感じ得るのではないか。またその思いが、あまりに高速で飛び回る鳥にも必要ではないかということである。そして入り込む光はその閉鎖的な空間を少し外に開き、精神を開放することになる。

●システム工学
研究デザイン科
山崎和義

多摩美術大学

 本来、鳥にとっての生活の場は空であり、バードハウスは彼等にとって生活の場ではなく休息や雛を育てたりする場所である。つまり「バードハウス」とは、鳥たちにとって無限に広がる生活空間のなかでのよりどころであり、唯一の個のスペース、そして「起点」であるといえる。
 このことは現代の人間社会においても共通するのではないだろうか。かつて人々は生活のほとんどを住居やその周りで営み生活空間としてきた。人々はそこを自分の居場所と考え外部の空間との明らかな境界を感じていたはずである。
 しかし、社会の発達や交通手段の進歩にともなって飛躍的に活動の場を拡げて行き、住居は生活の場というよりむしろ生活の「起点」として有り方を変えていった。私達は毎朝、自分の巣から飛び立ち、社会を飛び回り夜になると巣に帰っていく鳥のようである。
 鳥たちは何百キロも離れたところにいながら常に行き場所を把握し、大海原を超えて目的地へそれにひきかえ現在、交通 手段を使った物理的移動に加えインターネットという仮想の空間に接続することで瞬時に世界中に飛んで行け、 日常生活る私達は確固たる自分、向かう場所、戻るべき場所を持っているだろうか。
 私達は生活空間の中での単に住居という意味のみならず、自己の意志や信念といったものを含めて「起点としてのバードハウス」を考えていきたい。インターネットにより情報が豊富に、そして地域に関係なく平等に得られ、世界中の人々とリアルタイムで双方向的なコミュニケーションがとれるようになり仮想空間の中は大空のように自由であるかのようだ。
 だがその反面、さまざまな境界が曖昧になりつつあり、人は個と社会をハッキリとわけて考えることを忘れプライバシーという観念や自己という存在が希薄になってきている。もはや自分の意志であると思っているものが本当に自分のものなのか、あるいは情報によって操作された社会の意志なのかの見分けは尽きにくい。
 私達は、どんな大空を獲得しても自らの「起点」を見失ってはならず、確かな「バードハウス」が必要なのだ。  この作品は、鳥が自らの起点であるバードハウスに舞い戻る姿をモチーフにすると同時に水面 を揺れ動くような私達の居場所の曖昧さ、あやうさをあらわしている。私達の自己と他の境界は流動的で判然としない。それぞれの個は水の波紋のように広がり自らの存在を希薄にしていくのである。またこのバードハウスは内部にサイバースペースへの接続口を持っておりネットを使って仮想空間に飛び立っていくことができる。実際に携帯電話を手にとって電話をかけてみてほしい。あなたはこのバードハウスに世界中のどこにいてもサイバースペースを通 じ帰ることができるのだ。そしてバードハウスはあなたの訪れに対し影響を受け鳥が止まり木に降り立つように揺れ動く。それによりこの世界が現実の世界と同じようにインタラクティブなものであることに気づくだろう。
 携帯電話は現在驚異的な普及率を見せている。私達はサイバースペースへの入り口を常に持ち歩ける新たな起点を手に入れたのである。これを機会に私達はもう一度自らの居所について考え二つの世界の快適な過ごしかたを考えなければならない。
 もし今、バードハウスが揺れたとしたらこの世界の誰かが舞い戻ってきたのかもしれない・・・。

●生産デザイン学科
プロダクトデザイン研究室 副手

大城真子

●生産デザイン学科
プロダクトデザインコース
酒井真之/森本壮/山口賀史

●監修 和田達也
生産デザイン学科
プロダクト デザインコース助教授

大阪市立大学

Mina-no-moto (Origin for all)・皆の素
 私たちは、今を生きている 未来のことをいくら考えても、実際にその時になってみないとわからない。 また、未来の自分にとっては、その「未来」にしか「今」という瞬間は存在しないのである。
 人は、「今」しか生きられない。 また、「今」は今しかないのだ。 そして「今」は一瞬で過ぎる。
 1秒前には未来であったものが、1秒後には過去になる。 そんなはかない一瞬を、私たちは無意識に流してしまっている。 その様に、一瞬を、大切にできないのは、もがいてもいい、あがいてもいい、楽しんでも照れてもいい・・・そんな風に、自分を生のままに感じることのできる場がないからなのだ。
 そんな場があったら、もっと「今」を感じることができるのではないだろうか。
 私たちは、未来を考えるときに、未来の「今」を考えた。 今の「今」を考えた。 「今」を考えるということは、環境共生や、未来の環境づくりに直接はつながらないと思うかもしれない。 しかし、今を各々がとらえ、大切に感じることが、今を動かすパワーになる。 そして、世界の環境や未来も、「今」を感じるパワーによって動いているのである。
 何もない、ただの紫の空間を通り抜けるという、それだけの行為を体験してほしい。 ほんの束の間で、何かを感じとるのは困難なことかもしれない。 しかし、確実に、時は過ぎ去っているということ。「今」は今しか感じられないということ。 それらに気付いたとしたら、いつも何を考えるでもなく素通りしている時の流れの中で、無意識を意識に変えることができるのではないだろうか。
 「今」を感じるそのパワーが「今」をつくり、そして未来でも、未来の「今」をつくる。 そういう、みんなのパワーの源であってほしいという思いから、この「皆の素」(ミナノモト)は完成した。

●生活科学部生活環境学科
大川菜摘/岡部藍子/川口怜子

東京大学

void in nature
 void in nature)は、自然との共生を考える上で、自然物と人工物との関係を意識化する装置である。

 その構成は、mass と void による単純なもので、mass はキューブの形をしており、(自然環境)のひとつを切り取ったものである。
 void は鳥のために開けられた(バードハウス)で、建築・人工物を意図している。void =人工物   mass =自然物
 両者は境界面を共有し、mass は void を規定し、void は mass を規定している。 つまり、void を開ける行為=建築行為は、そこに存在する様々な生物の生活空間を規定することになる。 私たちは、人間と自然の両方の立場から建築をつくらなければならないということを再認識すべきである。

●工学系研究科 建築学専攻修士課程
高橋直子/末光弘和

神戸芸術工科大学

未来の鳥がつくる空中ステーション Floating Air Station Built By Future Birds
 人間の遺伝子が学習能力を持って発達するように、鳥の遺伝子も進歩し、いつかは人間と同じように、じぶんの住む住居をデザインするようになるかもしれない。
 そんな未来の鳥をイメージしながら、空中に浮かぶステーションとしてのかたちを考えた。 出入口はポイントとして赤いじゅうたん、そこからは階段が続き1LDKが広がる。そして奥には、明かり取りとしての窓がある。
 なにより、外部の造形はどの角度から見ても違う表情を見せてくれる。また巣自体は中にあるので、保護されており外部の敵から子供達を守ることが出来る。
 作品は模型として作っているが、ここに住む鳥ははたしてどんな材料を用いるのだろうか?

携帯鳥宿 Portable Inn
“鳥と共に・・・”
人生は旅である。 鳥もまた“渡り”という旅をしている。 旅にはさまざまなスタイルがあるが、鳥という“旅の仲間”と共にする旅。(旅程で)鳥に出会う旅。
そんな旅があってもいいのではないか。
この考えの中から創造されたのが、このバードハウスであった。 その形態は鳥の卵をモチーフとしている。
自然界においてこの形から恐怖を感じる生物はいない。
旅のパートナーとなる鳥の休憩所ともなれば、安眠の場ともなる、程よい空間。
バッグあるいは身体に装着可能であることから、物理的にも精神的にも常に旅という同一目的によって繋がれた鳥と人間。 鳥のさえずりから、または共に旅をするということ自体から旅の疲れや寂しさが癒される人間。
旅がもたらす新しい関係を楽しんでみることがこの作品では提案されている。 あなたは誰とどんな旅をしますか?

未来の鳥がつくる空中ステーション

●工業デザイン学科
プロダクトデザインコース
坂田佳子/松尾朱美

携帯鳥宿

●大学院総合デザイン専攻
坂田功

麻生工科専門学校

Symbiosis With Nature・自然との共存
 現在、自然環境破壊が問題となっている。人口が増加し、人間は森林を伐採して都市をつくる。それと同時に鳥は住む場所を失いつつある。
 人間は自然環境に配慮した住居をつくるべきである。自然を守り、森を鳥が自由に飛び回れるような世界をつくれたらと思う。「自然との共存」バードハウスという鳥の巣箱をとおして、今人間に一番大切なものを伝えることができればと思う。  鳥は自身で巣をつくり、その中で自給自足の生活を営む。そこでひなを育てる。ひなを育て終わったら、巣はまた自然に戻りリサイクルできる。このことを人間の生活スタイルにおきかえられないか。 人間も自給自足し、リサイクルできるような自然に溶けこんだ空間をつくるべきである。そうすると自然環境破壊の問題も減り、理想的な世界がつくれるべきではないかと考える。このことをバードハウスによって多くの人に伝えることができればと思う。
 この作品は「自然との共存」をテーマにデザインした。卵形をモチーフにした巣箱が木と葉 で覆われて一体化している。シンプルで自然にも溶けこみやすく、落ち着きのある形に見える。巣箱の中は空洞である。巣は鳥自身が暮らしにあったデザインをすればよい。卵形の巣箱であるから、親鳥も安心感を覚え不安なひなを育てることができるかもしれない。木と葉で覆われているため、ひなも親鳥が餌をとりに行っている間、外敵に襲われずに身を守ることができる。ひなは成長後、巣箱である2つ目の卵の殻を破って飛び立っていく。
 人間も自然と共存し、鳥にように環境にやさしい住居をつくるべきである。子供たちが自然の中で育ち、自然の中で遊び、自然の中で学ぶような理想的な住環境ができたらいいと思う。バードハウスプロジェクトを機会に、これまでの生活スタイルを見つめ直してくれる人間がひとりでも多くなればと考える。

●建築学科
古川宣啓

ミラノ工科大学

direct line
 翼を休め、休息する場所としての、自然と街の境界としての、バードハウス。
 家々や商店の外壁……鳥が棲むことができ、かつ、都会の自然の一部として溶け込み、新たな息吹を吹き込める壁すべてに設置します。
 構造はモジュール組み立て式。スチール製の筒状の物体(長さ1メートル、直径8センチ)に、等間隔で孔を開けます。ここに、自由に曲げられるワイヤロープを通 すのです。これは、その場所の広さに応じて、組み立てる数を調節するための工夫。ワイヤロープは、筒状の物体同士をつなぐためだけでなく、バードハウスを壁に固定するためにも使い、長さは1メートルから数メートルまでと様々です。  孔を通り、自在に曲がり、ピンと張った状態のワイヤロープは、バードハウスと一体化するはず。水飲み用の器もいくつか置きます。  ダイレクト・ライン・プロジェクトならば、解体しやすいので、移動も簡単。
 また、曲げやすいワイヤロープを使っているため、色々な形に対応が可能です。
 都会の樹木としての、バードハウス。

●建築学部
ロレンツォ ダミアーニ